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【健康コラム】「アルコールと記憶障害」

【健康コラム】「アルコールと記憶障害」
1979年にリリースされたコミックバンド、バラクーダの楽曲「日本全国酒飲み音頭」によると「8月は暑いから酒が飲める」そうです。この歌、1月から12月まで何かと理由をこじつけてはお酒を飲んでしまうというコミックソングですが、毎年まだ一分咲きの桜の木の下で楽しそうにビールを飲んでいる人々を見るたび、じつは日本人の呑べえ気質を極めて的確に歌い上げた名曲ではないかと感じます。お酒が好きな人にとっては、それは人生を豊かにしてくれる魔法の液体ですが、一方では体にダメージを残す毒薬にもなります。年間通して、いや人生通して楽しく付き合うために、お酒についてしっかりした知識を持ちましょう。本日のテーマは「アルコールと記憶障害」です。

 

近年、過剰なアルコール摂取の弊害として、認知、記憶能力への影響が注目されています。アルコール依存症患者や大量飲酒者には、しばしば脳萎縮が見られ、認知症になるリスクが高くなることが知られています。また施設に入所している高齢の認知症患者の29%は、大量飲酒が原因の認知症であると言われています。(厚生労働省、e-ヘルスネットより)これらの脳機能障害は長期間アルコールを大量摂取した結果起こるものですが、ごく短期間に認知症とは全く別のメカニズムで起こる記憶障害が「Alcohol-Induced Blackout」(ブラックアウト、酩酊時の記憶欠落)です。

 

以下にご紹介する、ソウル聖メアリー病院のHamin Leeらによって発表された研究では、ブラックアウトは「意識喪失やその他の能力の欠落を伴わない、酩酊時の記憶の欠落」と定義されています。これは「泥酔して意識がなくなり、何も憶えていない」状態とは区別されます。実際の例としては「前の晩、酩酊して帰宅した朝にどうやって帰ってきたか思い出せない、でもポケットにはタクシーの領収書がちゃんと入っている。」という感じでしょうか。(※当院の患者さんの実際のエピソードです)このブラックアウト、特徴的な事は「思い出せない」という事以外は大体いつも通り行動できている事です。第三者に当時の自分の様子を聞いても、大抵は「いつも通り普通に飲んで、普通に帰った」と言われます。(まあ、酩酊はしているのでしょうが)

 

1950年代までは過度なアルコール摂取にによる脳萎縮の影響や、アルコール依存症の兆候と思われていましたが、実はブラックアウトは誰にでも起こりえます。人の記憶は脳の海馬という部分で構築されますが、海馬は脳の他の部分と比べていち早くアルコールの影響を受けます。急激な血中アルコール濃度の上昇が起きると、海馬の働きのみが抑制され、短期間記憶が長期間記憶に移行できなくなります。このため寸前の事は覚えているので、キャッチボールの様にその場の会話はできるけど、ちょっと前に話した内容を忘れている、という状態になります。

 

ブラックアウトが起きたからといって、脳に機能障害があるわけではありません。お酒を飲んでブラックアウトをよく経験する人としない人の「しらふ」の時の脳機能に有意な差はみられないそうです。しかしそれよりも、ブラックアウトを頻繁に経験する人が憂慮すべきことは、その飲酒習慣です。ブラックアウトは急激な大量の飲酒によって引き起こされる脳の反応ですので、「飲みすぎ」であることには変わりありません。2004年にアメリカデューク大学で行われた調査では、ブラックアウトを経験した人の大多数は飲みすぎを自覚し、減酒・断酒をすると報告されています。言い換えると、ブラックアウトを頻繁に経験している人は飲みすぎが常態化し、酒量をコントロールできていない少数派の人になります。アルコール依存症患者の多くが、依存初期に頻繁なブラックアウトを経験していることを考えても、早い段階で対処できないと将来大きな問題となる可能性があるといえるでしょう。少しでも身に覚えのある方は、まず①ゆっくり飲む、②休肝日を増やす、③食べながら飲む、の三つを心がけて下さい。

 

いつまでも楽しいお酒ライフを続けられるよう、節度ある飲み方を心がけましょう!

 

(↓参考ウェブサイト↓)

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2800062/